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最高裁判所第三小法廷 昭和36年(あ)1187号 判決

主文

原判決及び第一審判決を破棄する。

被告人戸村武二、同戸村善一を各懲役六月に処する。

但し、右被告人両名に対し、この判決確定の日から三年間、いずれも右刑の執行を猶予する。

被告人だるま漁業株式会社を罰金二万円に処する。

訴訟費用中、国選弁護人海老根保久に支給した分は、被告人三名の平分負担とし、その余は被告人戸村善一の負担とする。

理由

弁護人小泉盛之助の上告趣意第一点、第三点は、量刑不当の主張であり、同第二点は、単なる法令違反の主張であって、いずれも適法な上告理由に当らない。

弁護人海老根保久の上告趣意一は、判例違反をいうが該当判例を具体的に指摘していないから不適法であり、同二は、事実誤認の主張であって、いずれも適法な上告理由に当らない。

しかしながら、原判決の是認した第一審判決の被告人三名に対する追徴の言渡の適否につき、職権により調査するに、右適用法令たる「さけ・ます流網漁業等取締規則」(昭和三一年四月九日農林省令第一一号による改正後の昭和二七年七月四日農林省令第五二号)二九条二項には、「前項の場合において、犯人が所有し、又は所持すを漁獲物、製品、漁船及び漁具はこれを没収することができる。但し、犯人が所持していたこれらの物件の全部又は一部を没収することができないときは、その価格を追徴することができる。」旨規定されているところ、右規定の授権法たる漁業法(昭和二四年法律第二六七号)六五条四項には、「第一項の規定による省令又は規則には、犯人が所有し、又は所持する漁獲物、製品、漁船及び漁具の没収並びに犯人が所有していたこれらの物件の全部又は一部を没収することができない場合におけるその価格の追徴に関する規定を設けることができる。」旨、また、同じく水産資源保護法(昭和二六年法律三一三号)四条四項には、「第一項の規定による省令又は規則には、犯人が所有し、又は所持する漁獲物、漁船、漁具及び同項第六号の水産動植物の没収並びに犯人が所有していたこれらの物件の全部又は一部を没収することができない場合におけるその価格の追徴に関する規定を設けることができる。」旨、それぞれ規定されているのであって、いずれも没収不能物件の価格の追徴については、それが犯人の所有していたものであることを要件とする趣旨であることが窺われる。従って、前顕のとおり、右追徴につき、当該物件が犯人の所持したものであることを要件とする、本規則二九条二項但書の規定は、法律による授権ないし委任の範囲を越えたものとして無効であり、右規定を根拠として、追徴を科することはできないものといわなければならない(国家行政組織法一二条四項参照)。

されば、第一審判決判示第一の犯行による漁獲物が没収不能であるとして、本規則二九条二項に則り、右価格中の一部金一、五〇〇、〇〇〇円を被告人三名から追徴する旨言い渡した第一審判決及びこれを是認した原判決は、いずれも右の点において法令の解釈を誤った違法があり、右の違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決及びその維持した第一審判決は破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。

よって、刑訴四一一条一号、四一三条但書に則り、原判決及び第一審判決を破棄し、当裁判所は更に次のとおり判決することとする。

第一審判決の認定した事実に法令を適用すると、被告人戸村武二、同戸村善一に対する判示第一の所為は、「指定漁業の許可及び取締り等に関する省令」(昭和三八年一月二二日農林省令第五号、同年二月一日施行)附則一六条、前記「さけ・ます流網漁業等取締規則」二条二項、二九条一項一号、刑法六〇条に該当するので所定刑中各懲役刑を選択し、被告人戸村善一の判示第二の所為は同法二五八条に該当し、以上の事実は、同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条、一〇条により判示第二の罪の刑に併合罪の加重をなし、各刑期の範囲内で右被告人両名はいずれも懲役六月に処し、同法二五条一項を適用して、右被告人両名に対しこの判決確定の日から三年間、それぞれ、右懲役刑の執行を猶予し、被告人だるま漁業株式会社に対しては、その使用人たる右被告人両名が右会社の業務に関し判示第一の行為をなしたものであるから、前記規則三二条、二条二項、二九条一項一号に従い罰金二万円に処することとし、訴訟費用の負担につき刑訴一八一条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

この判決は、裁判官全員一致の意見によるものである。

裁判官垂水克己は、退官につき本件評議に関与しない。

(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 石坂修一 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 横田正俊)

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